店主対談「まなざし」

割烹渡辺×兄弟寿し 【後編】地元の誇りになるような店を作りたい。

割烹渡辺の渡辺大生さんと兄弟寿しの本間龍史さんの対談。
後編は、相手に聞きたかったことや、プライベートでのお酒の楽しみ方など、お二人の素顔に迫るようなテーマで語り合ってもらいました。会話から伝わる仲の良さにも注目です。

割烹渡辺 渡辺 大生

1974年、新潟県新潟市(旧巻町)の料理店に生まれる。高校を卒業後、新潟市の割烹大直にて修業。24才で家業に入る。新潟の日本料理の店主達からなる「厨クラブ」(クリヤクラブ)の一員として活動するほか、新潟のシェフチーム「ll Laboratorio Di Cucina Niigata」(イル ラボラトリオ ディ クチーナ ニイガタ)の一員としても研鑽を積む。

兄弟寿し 本間 龍史

1982年、新潟市生まれ。高校を卒業後、東京・銀座や六本木(「蔵六鮨 三七味」)で江戸前鮨を学ぶ。29才で帰郷し、家業の「兄弟寿し」2代目を継承。新潟の日本料理の店主達からなる「厨クラブ」(クリヤクラブ)の一員として活動している。

― 料理人として、相手のすごいと思うところは?

渡辺
龍ちゃんほど、曲げない・折れない人はいないと思う。そこは僕にはないところですね。歳は僕のほうが上なんですけど、そんなこと関係なく対等に、自分が思っていることや、やりたいことを話せる相手ですね。

本間
(渡辺さんは)アグレッシブなんですよ。生産者さんとか色々な人に会いに行っている。その行動力がラボクチ(料理人のグループ)のメンバーや飲食業界の人を惹きつけるのかなと思いますね。割烹渡辺がリニューアルオープンした時のレセプションには、新潟のそうそうたる料理人たちが集まりました。それは渡辺さんの人徳ですよね。

渡辺
僕はコンプレックスがあって、自分の中に足りないピースがたくさんあるって分かってるんですよ。だから、いろんな人に興味がある。考えることや仕事の仕方は、みんなそれぞれ違うわけじゃないですか。それを知りたいんです。

― 料理人としての目標を教えてください。

渡辺
自分の「料理の形」を作ることですかね。やりたい料理をやってるつもりですけど、「渡辺」というカテゴリーはまだ作れていない。絶対に答えもないし、ゴールもないと思うけど、たとえできないとしてもずっと追求していきたいですね。

本間
三ツ星はもちろんほしいですし、評価は大事なんですけど、そこにこだわりすぎると疲れちゃうんで、一度脇に置いて。やっぱり愛される店を作りたいなと思います。「新潟には兄弟寿しがあるんだよ」って新潟の人に言ってもらいたい。

渡辺
いいね。

本間
今でこそ県外からお客さんが来てくれていますけど、古町で60年以上商売をさせてもらって、地元の人に育ててもらったと思っています。だから、地元の人に愛されるお店、もっと大きく言うと、誇りに思ってもらえるお店になりたいですね。

渡辺
「渡辺も同感です」って書いておいてください(笑)。

― お二人はとても仲が良いですが、いつからお付き合いがあるんですか?

渡辺
以前から面識はあったんですが、仲良くなったのは「厨クラブ(料理人のグループ)」に参加してからですね。発起人は古町にある「古門」さんで、僕と龍ちゃんは声をかけてもらってメンバーになりました。みんな同じ方向を見ていたから、一気に仲良くなりましたね。

本間
多分フラストレーションもあったと思うんですよ。新潟の飲食業界に足りないものを感じている人たちが集まったわけで、「もっとこうしたい」という思いをみんな持っていたんだと思います。一瞬で仲良くなれた感じがしましたね

渡辺
メンバーは「出会ってよかったな」と思う人ばかりでしたね。世界が変わりました。同じ意識を持っている人がいることに助けられました。

― 二人で飲みに行くこともあるんですか?

渡辺
行くこともあるんですけど、お互いにお店をやっていて仕事が終わるのも遅いので、そんなに頻繁ではないです。夜中に電話をすることはよくありますね。あとは、日にちを決めて飲みに行ったり、勉強がてら食事に行ったりはしています。

― 普段、家飲みはしますか?

渡辺
お酒は大好きなんですけど、家では一切飲まないです。朝から夜まで仕事をしているので、家に帰って寝るまでの自由時間が本当に貴重なんです。そこでお酒を飲むとそのまま一日が終わっちゃうので、それ以外の好きなことをやる時間にしています。そのかわり、飲むと決めた時はガッツリ飲みます(笑)。

本間
僕も飲まないですね。飲んでも缶ビール1本くらい。お酒は好きですけど、そんなに強くないので。だからやっぱり外に出た時しか飲まないですね。

― 外で飲む時には、どんなお酒を飲みますか?

渡辺
日本酒ですね。ビールも好きなんですけど、年齢とともにたくさん飲めなくなってきました。ビールで軽く喉をうるおしたら、あとはもうずっと日本酒。銘柄は、色々なものを飲みたいですね。知らないものを知りたい。日本酒を作っている人は日本にたくさんいて、その全員が全身全霊を込めて作っているはずなんですよ。気持ちを込めて作られた色々なお酒を飲んで、「おいしいな」って思えたら人生楽しいと思います。おつまみは刺身が好きです。

本間
僕は何でも飲めるんですけど、仕事柄、日本酒になっちゃいますね。酒蔵の方と付き合いがあるから、日本酒の向こう側に作っている人の顔が見える。今年は昨年よりもいいなとか。すぐ酔っ払って寝ちゃんですけど。最近、日本酒が再注目されていると感じます。特に20〜30代の若い方や、女性にも。新潟の酒蔵も今までのように辛口一筋ではなく、柔軟になってきているなと思います。

― 新潟のおすすめスポットやレジャーを教えてください。

渡辺
昔ながらの集落が好きですね。五ヶ浜とか、弥彦山のふもととか。昔ながらの町並みが残っていて良いんですよ。よく歩きに行くんですけど。福井集落や角田浜集落、寺泊野積とかね。すごく良いですよ。

本間
最初に思いつくのはやっぱり佐渡ですね。漁師さんや魚屋さんとのお付き合いもあるので、定期的に行きます。すごく豊かな島なんですよ。あらゆる食材があって、伝統芸能まである。

渡辺
全部揃うもんね。

本間
あと、魚沼も好きです。自然の豊かさと人の豊かさを感じる土地です。毎回八海山酒造に行って、蔵人たちとふれあって。そこには「魚沼の里」という施設もあって、蔵の周りにお土産屋さんや酒屋さん、雪室、ビールの醸造所などがあって、お酒を飲める人も飲めない人も楽しめるんですよ。家族連れで来ている人もいたりとか。何度も行きたくなる場所です。

渡辺
良いところはいっぱいあるよね。でも結局は「人」かもしれないですね。農家さんとか酒蔵とか、会いたい人がいるから、その場所に行くのかもしれないです。

― この機会に相手に聞いてみたいことはありますか?

本間
聞きたいことがあったら電話してすぐ聞いちゃうんですけど(笑)。僕、今年39才なんですよ。なんかもう折り返し地点を過ぎている気がしているんです。18 才でこの業界に入って、バリバリ働くのが60才までだとすると、ちょうど半分くらいまで来てるんですよね。そこで引退するつもりはないですけど、それ以降は同じエネルギーは保てないと思っていて。そこで聞きたいんですけど、渡辺さんは「引き際」をどう考えています?

渡辺
それは決めてある。せがれがうちの店に入ったタイミングで一線を退く。スタッフが足りないだろうから、俺は全力で手伝うけど、好きにやらせる。一切口出ししない。それは決めてる。俺も親父に店の経営について口出しされたことが一回もないんですよ。だから失敗もたくさんしたんですけど、結果的にすごく良かったと思っています。父親と一緒にやるとどうしても甘えが出るんですよ。だから、僕は引き際をそこに決めています。

本間
今、息子さんは21才じゃないですか。あと10年修行して帰ってくるとしたら、渡辺さんは57才ですよね。そこで引退ですか?

渡辺
引退はしないけど、裏側で手伝う。

本間
引けますか?57才で。自分で小さい店をやろうとは思わないですか?

渡辺
ちょっと思う(笑)。

本間
全然引いてない(笑)。

渡辺
60才くらいになったら、カウンター5〜6席の小さいお店をできたら最高だな。夢だね。

(終)

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